それに関連して、もうひとつ大事なことは、これまで服薬指導と言われたときには、その主な指導は、服薬に関する事柄に対する説明でした。飲み方とか、注意点とかそういった事柄です。もちろんそれも大事な仕事の一つですが、生活習慣病の患者さんで長く薬を飲んでいる方の場合、何度も服薬指導を重ねて必要な事柄を指導し終わると、そのあと何もすることが無くなってしまいます。しかしそれは、服薬指導する薬剤師の側がすることが無くなっただけであり、患者さんの側が何も必要としなくなったのとは違うと思います。
服薬ケアでは、患者さんの薬識や、感情への着目を大切にしています。薬識は常に変化しています。また、治療に掛かる意欲も日々変化しています。そんな日常生活の中で、どう生活改善を成功させ、コンプライアンスを確保していくかを、患者さんと一緒になってフォローしていく姿勢が服薬ケアの基本姿勢です。
医薬分業が700年以上の歴史を持つ欧米各国のファーマシューティカルケアと、制度として院外処方せんがやっと発行されるようになってきた日本とでは、実践まで見通したケアの概念を整理すると、全く同じというわけには行かないことがいろいろあるのです。
従って、ファーマシューティカルケアの本質、スピリットをそのままに、日本の実情に合ったケアを考えて行くことを目的としています。
それに、一言「服薬ケア」と言った方が言いやすいし、聞く方もわかりやすいことも事実です。特に介護保険など他の医療職と共にケアを行なう現場では服薬ケアの方が通りがいいようです。
今の薬剤師の状況を考えたときに、薬剤師が広く国民からも、そして処方する医師からも評価されていないというのが率直なところでありましょう。これを打開していかなくては薬剤師の明日はないと言っても過言ではありません。そのために必要な論理と行動原理が「服薬ケア」なのです。
そしてこれは「薬剤師の役割分担を明確にして、それをアピールし、そして結果を出す。」ということでもあります。さらにその結果医薬分業というものが、本当の意味で文化としてこの国に根付くということにもなります。
こう考えてきたとき、「薬剤師がどう医療制度の中で役に立てるか?」という本質的な部分に病院薬剤師と開局薬剤師の差はまったくありません。医療の流れの中で、関わっている立場が違いますので、実質的に分担する部分に多少の違いはありますが、本質的に「薬剤師とは・・」を考えるときには全くいっしょです。したがって服薬ケアをそのようにとらえていただければ、病院薬剤師の方でもそのまま役に立つ考えであると思っています。
そして開局薬剤師に目を向けると、この服薬ケアが出来るのか出来ないのかで、そもそも薬局という存在、そして開局薬剤師という存在が必要なのかどうかという本質的部分に、すぐ突き当たってしまいます。したがって、具体的な話の中ではどうしても開局中心の話になりますが、本質的なところは、病院か開局かということがあまり関係のないことであることを、ご理解いただけると思います。
服薬ケアを学ぶ仲間の集まりである服薬ケア研究会では、「医薬分業とは、病院薬剤師と開局薬剤師がともに作っていくものである。」という議論が行われています。それは、「医薬分業が受け入れられるかどうかは、薬剤師の役割を広く認めてもらえるかどうかということなので、病院は病院、開局は開局で、それぞれ置かれた立場で周りの医師や他の医療者、そして何より患者さんに認めてもらうことが、医薬分業の原点である。」という主旨の議論です。
「院外処方せんを発行して、薬局で調剤して・・・」という外面だけを眺めていたのでは、文化としての医薬分業を根付かせることはできないと考えています。
病院、開局の区別なく、ともに薬剤師の未来を切り開いていきたいと思っています。
しかし単に開いた質問をすれば患者さんが心を開いてくれるわけではありません。それよりも自分の側が、非言語メッセージで相手に対して本当に「あなたの話を聞きたい。あなたの役に立ちたい。」というメッセージを発しているかどうか、チェックしてみてください。
相手がなかなか話をしてくれないという人の多くは、口はともかく、態度では「忙しいから早く帰って!」「何かわからないこと質問されたらどうしよう。」と思っていることが多いものです。心のどこかで「早くさばきたい。」と思っていたのなら、患者さんは絶対に心を開いてくれることはありません。
あまり言葉にこだわらずに、何でもいいから開いた質問で体当たりしてみてください。あなたの気持ちが伝われば、きっと何か言ってくれるはずです。
もし余裕があるなら、出来るだけその患者さんに直接関係あることを質問してください。たとえば前回の情報が何か薬歴に残っているなら、「この前お話していた○○はその後いかがですか?調子良いですか?」というように質問すると、自分のことなので答えやすくなります。
効果的な繰り返しは、相手の言った事実ではなくそのときの相手の感情に共感していく技法なのです。
開いた質問の答えにたとえわずかでも感情が現れていたら、その部分に効果的な繰り返しを行います。患者さんの感情にピタッとあたっていれば、患者さんは必ず「そうなんですよ。」とキーポイントを含んだ返事をくれます。そこですかさず「つらいですね。」とか「素敵ですね。」とか、「きちんとなさっているんですね。」とか、何か反応してみてください。
相手がその話題に触れて欲しくない場合を除いて、こういったやり取りが出来ていれば、話が途切れることは絶対にありません。とにかく相手の感情に共感してみてください。
別の言い方をすると、患者さんの欲していること、そのときの感情の様子、薬識の状態などによって、こちらの対応の仕方を瞬時に切り替えるということなのです。つまり今その瞬間の相手にふさわしい対応に、すばやく反応してついていくことが「使い分け」ることになります。
通常我々がしたいことは主にガイダンスですよね。ガイダンスのときはそれを受け取ってもらえるような状況を作ることが必要です。その状態を判断するために薬識だとかいろいろな知識と情報収集が必要なわけですよね。その結果ガイダンスがちゃんと受け取ってもらえれば成功です。
ところがガイダンスの途中でガイダンスされた事実から派生して、患者さんの心の中で何らかの感情の変化が起きたとします。たとえばガイダンスされた事実から、(患者さんの認識の範囲内では)似たようなことが他の薬にもあって、「あれ?それならあの薬のときはどうなんだろう?同じなのかな?」という疑問が起きたとします。するとその次に必要なのはコンサルテーションということになります。ところが疑問がおきたにもかかわらず、聞いてみようという気がおきなかった場合は、それを察して「質問しようかな」という意思決定を手助けする必要があります。その瞬間だけ一瞬カウンセリング的な関わりが必要になります。ところが質問をしてくだされば、またコンサルテーションに戻ります。
一言で言えば、「常に相手の感情についていって(フォロー)、その時々に最適な対応をする。」ことなのです。そして「何が最適な対応か」を学ぶときに、「これらのコミュニケーション技法をそれぞれ学ばなくてはなりませんね。」ということなのです。
したがって、最初はあまり気にする必要はありません。それより開いた質問から効果的な繰り返しにいたる最初のステップを、スムーズに出来るように練習してください。それさえ出来れば、日常的な窓口対応で困る事はありません。
しかし、現実問題としてそうも行かないというのが悩みだと思います。薬剤師としての良心に照らし合わせて、どうしても納得行かないのなら、経営者がなんと言おうと、医師がどれだけ怒ろうと、問い合わせをするべきです。医療者としての魂まで売り渡してはなりません。
しかしそう事を荒立てたいわけではないのも事実。たとえ患者さんが帰った後でも、先生のところへお伺いして「私、勉強不足でよくわからないので、教えていただきたい。」と処方意図を率直に聞きに行くのがベストです。こんな場合は電話では失礼です。必ず出向いて行きましょう。
さてその次にお話したいのは、服薬ケアの特徴的なところでもある、「患者さんの自立支援」という観点です。薬剤師が「先生この処方はちょっと・・」と言うことが出来なくても、薬を飲んでいる当事者である患者さん本人が、医師に向かって質問する権利はあるはずです。
したがって、患者さんが疑問、不安を持っている事柄に対して、患者さんが自分の意志で自己決定して医師に質問できるように、自立支援を行うことが大切だと思います。
このとき自立支援でなく、薬剤師側に「逃げ」の姿勢があると、今度は医師から「余計なことを患者さんに話すんじゃない!」といったお叱りを受けることになります。
人間というのは出来るだけ目の前の人に対して「イイ子」であろうと振舞います。しっかりした自己決定の上に質問する意志を形成できたなら、そんな言い方はしませんが、ただ単に質問することを勧めるだけだと、「薬局の薬剤師にこんな風に言われたけど本当か?」というように、薬剤師の責任をにおわすような言い方をしてしまいます。そんな言い方をされれば医師は「俺の処方にケチをつける気か!」と思ってしまいます。
とっても難しいことであるのはわかっていますが、患者さんが自己決定できるようにフォローしてあげてください。
もちろん日頃から医師とのコミュニケーションを密にして、信頼関係を築いておく必要があることは言うまでもありません。
もっとわかりやすい言葉で言えば、「相手を好きになろうと努力しながら話をする。」ということです。
お分かりだとは思いますが、これを何人もの不特定多数の人とやり続けるのは、とんでもなく大変なことです。したがって、次に必要なことは「集中力を維持する力と、粘り強い根気を持て。」ということです。言い方を換えると「自分の心を鍛える。」ということかもしれません。
人間の心というのは筋肉と同じで鍛えれば鍛えるほど強くなります。どんな相手であろうと、医療者として同じように接するためには、かなり心を鍛えないとならないと思います。これは今までの人生でそんなこと考えても見なかった人にとって、かなり大変なことです。しかし本当のプロになるためには避けては通れない部分です。日々の業務の中で鍛えることが出来ますので、毎日を無駄にせずコツコツと鍛えてください。
次にある程度技術として学ぶことが必要です。
コミュニケーション技法をきちんと技術として習得することにより、経験則だけでは習得できないことも習得可能になってきます。つまり、苦手な人でも習得可能だということです。そして技術としての習得は、皆さん得意分野なのではないかなと思います。いろいろな本も出ていますし、コミュニケーション技法に関する専門のセミナーなどもあります。服薬ケアセミナーでも重要な技術として重視していますので学ぶことが出来ます。ぜひセミナーの受講をお勧めいたします。
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よろしくお願いいたします。